兎と亀

先月、ここで書いていたようなニュース記事ピックアップや、日々のチラシの裏的内容は twitter に移行してしまってるので、ここはもう放置プレイと書いたけれど、はてなは1ヶ月以上放置すると諸々不便?なこともあるようなので、月イチくらいで他愛もないことをダラダラと書いてみることにした。

というわけで、少し前の話。神戸に所用があったので、そのついでに、久しぶりに六甲山に軽くハイキングしにいった。暑さも和らいだこともあって、そういう気分になった。

六甲山は小学校の時から登り慣れた山で、特に阪急芦屋川から風吹岩を経由するルート、いわゆる芦屋ロックガーデンと呼ばれる地帯を抜けていくルートは、おそらく100回や200回では効かないくらい通っている。

芦屋川から風吹岩を目的地にして甲南大学のある岡本の方へ降りていくハイキングコースや、風吹岩からさらに登ってお多福山まで行ったり、七曲がりの旧登坂を経由して六甲最高峰まで登って有馬温泉へ抜けたり、色々なコースのスタートとしても使われるコース。

そしてロックガーデンという名が与えられているように、ロッククライミングの練習場になるような岩場エリアもあって、そちらのコースを辿ることもあった(ただ岩場は阪神大震災でかなり崩れてしまって、以前のようにロッククライミングの練習場にはならなくなってしまった)。

むかし山登りをそこそこ楽しんでいた時と違って、岩登りなんてことはもうしないのだけど、東京から帰ってきて以降、日頃運動不足でなまった身体に鞭を入れる時には、芦屋川から風吹岩へのコースによく行っている。

たまに岩場のコースや地獄谷のコースを辿ることもあるが、さすがに足腰腕の体力がない今は尾根道を通ることが多い。今回も所用帰りで登山靴を履いてなかったこともあり(足首を保護する長さのあるバスケシューズは履いていた)、また時間的にも夕暮れまで余裕がなかったので、尾根道を風吹岩まで往復するのみだった。

とはいえ、このコースは登りがかなりキツい。六甲山は 1,000m に満たない山だが、海沿いから登るので、それなりの標高差はある。風吹岩も標高 447m だが、芦屋川からだと高低差は 400m あって、それを1時間前後で登ることになる。

芦屋川から山際の住宅街を抜けて20分少々歩くと、高座の滝という場所がある。ここが六甲山、ロックガーデンへの入口になる。体力ゼロの私は、ここまでの急坂を登ってきて既にヘトヘトである。

なので、しばらくここで休憩してから登ることになるのだが、休憩していたら後からトコトコと歩いてきたオジサンがいた。オジサンといっても、私よりはかなり年上っぽい。かといって、お爺さんというには失礼にあたりそうな年齢だ。

この付近はそれなりに裕福な人たちが多く、時間に余裕のあるオジサン、お爺さんたちが日々の日課として登っていたりする(毎朝、風吹岩まで往復してから出勤する強者もそこそこいるらしい)。

この高座の滝から先はかなりの急登坂で、尾根道も半分くらいまでは岩場になってるところが多く、途中に鎖場もあるような道である。そんな道なのに、トコトコと歩幅は私の半分くらいでゆっくりきているオジサンが、この先を登っていくのかなぁ?と思っていた。散歩だと高座の滝で引き返す人もいるし。

そう思いつつ、私はそのオジサンが休憩しているのを横目に、気合いを入れて登り始めた。

が、その気合いも数分で息切れになる。久しぶりであり、すっかり体力が落ちているので、無理せずスローペースにして登っているのに、ゼーゼーハーハーと息を切らせ、汗が滝のように落ちていく。

正直、この坂を登る度に「今日はもうこの辺で引き返してもいいんじゃないかな?」なんて誘惑が出てきてしまう。

と同時に、むかし小学校や中学校の頃は、ここへしゅっちゅう登りに来て、駆け上がるように登っていったのを思い出す。風吹岩まではいつもノンストップで、自己最速タイム更新を考えて登っていた(そして風吹岩で引き返すこともなく、最高峰を越えていくのが通例だった)ことを思い出し、すっかりオッサンになったことに自己嫌悪を感じるのだった。

ともあれ、引き返すのはやはり悔しいので、10分かそこら登って少し開けたところで、小休止。何度か無理して頑張りすぎて足が攣っている経験があるので、恥ずかしくとも無理しない。

と考えて休んでいると、少しして下からさっきのオジサンがやってきた。相変わらず歩みは遅いが、しっかりした足取り。普通の道ではトボトボと歩いていたけれど、逆に岩場の急坂な登りでも同じ歩み。歩き慣れているっぽい。

そのオジサンと挨拶してから、一度はオジサンが先行したが、小休止を終えて私が登り始めると、少ししてオジサンに追いつき、オジサンは私を先に譲ってくれた。

しかし、歩いている時のペースは私が速くても、フーフーゼーゼー言いながら歩いている私と比べて、オジサンは整った息のまま、ゆっくりだがしっかりとペースを保ってる。

そんなオジサンに道を譲ってもらったわけだが、そうなると追いつかれずに頑張ろう、という気になる。登山靴じゃないので、岩場だと砂地に足を滑らせやすいので慎重に行かねばならないが、なんとか頑張って岩場地帯を抜けて風吹岩まで半分程度の第一鉄塔まで来る。

第一鉄塔でまた休憩をしていると、オジサンが追いついて追い抜いていった。オジサンの足取りはゆっくりだが、休憩なしにしっかり登っていく。

ベンチに座って水分を補給し、体力を少し回復させた私が再び登り始めたのは、オジサンが通過してから数分後だったので、すぐにまた追いつくかと思ったが、なかなかオジサンが見えてこない。あれだけゆっくりと歩いているはずなのに、追いつけない。

とはいえ、私も無理してペースアップするわけにはいかない。足下も登山靴じゃないし、帰りのこともある。だけど、あんなにゆっくりと歩いているオジサンに追いつけない。何故だ…

そうこうしている間に風吹岩に到着。ちょうどオジサンが前に見えた時だった。追いつけなかった…その時、思った。

まさしく、ウサギとカメだ…

ヒィーヒィー言いながら頑張って登るけど、すぐに休憩を入れざるをえない私に比べ、歩みは遅いけれど着実に淀みないペースで登っていったオジサン。高座の滝で、この足取りで風吹岩まで登っていけるのか?なんて思った私が恥ずかしい。

と同時に、私の人生というか、私の仕事の仕方もまさしく同じことに気づく。ムラがある性格そのままの、仕事のやり方。判っているし、反省もするけど、まさに山に登るのも同じだ。というか、こんな私みたいな登り方だと危ない…

這々の体で風吹岩に到着した私がマッタリ休憩しているのに比べ、そのオジサンは5分ほど柔軟体操をしてから再び尾根道を下っていった。

夕暮れが近づく20分後、同じコースを下っていった私は、登山靴じゃないから砂地で足を滑らすのは気をつけないと…と思っていたのに、岩場じゃない何でもないところで考え事しながら下ってしまった時に足を滑らせかけ、たまたま脇にあった木々に右腕をひっかけ、右腕に5本以上のミミズ腫れを作ってしまうことになった。

きっと、あのオジサンは淡々と、遅いけれどしっかりした足取りで何事もなく降りていったことだろう。それを思うと、自分の情けなさに凹んでいた。ウサギとカメ。兎と亀。いや、ウサギですらない…

何を反省したらいいのか、反省すべきことの多い夕暮れだった。

話は変わって、その数日後。行方不明だったクレヨンしんちゃんの作者が荒船山で崖から転落死していた、というニュースが流れた。

以前、ロックガーデンで昔のつもりで岩場のコースを取り、今の自分の技量が足りない箇所に出くわして泣きそうになったことを思い出した。荒船山の崖のような高さはないにしても、あの時も夕刻で「ここで滑落して動けなくなったら、明日朝まで誰も来ないだろうなぁ」なんて思いながら、なんとか乗り切ったことをそのニュースで思い出した。

やはり山は無理してはいけないし、着実な歩みで登れるようにならないとなぁ…と再び肝に銘じることになった。

でもまぁ、ホント風吹岩から六甲最高峰のコースくらいは鼻歌交じりにサクサクと登れるくらいには体力を戻さないと、再び北アルプスに登りにいく夢は叶わないのだから、ちょっと頑張らないとね…